入院時に大部屋を希望したのに、なぜか「個室」にされました。「差額ベッド代」が心配なのですが、希望していなくても支払うのでしょうか…?

入院時に大部屋を希望したのに、なぜか個室にされてしまったというケースを聞いたことのある人もいるのではないでしょうか。個室だと自分一人でくつろげますが、心配なのは差額ベッド代です。
 
実は、差額ベッド代を巡るトラブルは少なくありません。本記事では、差額ベッド代が不要なケースや注意する事項についてご説明します。

差額ベッド代とは

差額ベッド代とは、個室や2人部屋など、いわゆる大部屋以外に入院したときにかかる料金のことで、対象病室の正式名称を「特別療養環境室」といいます。

 

厚生労働省の通達によると「療養環境の向上に対するニーズに応え、患者の選択の機会を広げるために」設けられた病室で、特別な設備があったり、一室内のベッド数が制限されていたりします。差額ベッド代は公的医療保険が適用されないため、10割が自己負担となり、高額療養費の対象にもなりません。

 

差額ベッド代の価格

中央社会保険医療協議会が発表した「主な選定療養に係る報告状況」によると、2022年7月1日現在の差額ベッド代「1日当たりの平均徴収額」は、1人部屋が8322円、2人部屋が3101円、3人部屋が2826円、そして4人部屋が2705円とされています。

 

これは全国平均であり、都市部では2倍を超える額との情報もあります。1日8000円としても、10日入院すれば8万円。民間の医療保険に加入していない人にとっては、手痛い出費でしょう。

 

差額ベッド代が不要な場合

個室などに入院しても、差額ベッド代がかからないことがあります。本来、差額ベッドは「患者が希望した場合に」提供されるものです。そのため患者の同意がない次のような場合には、差額ベッド代はかかりません。

 

・本人の同意が、同意書により確認されていない場合

同意書がある場合でも、室料の明記や患者の署名がないなど内容が不十分なときも含まれます。

 

・治療上の必要により、差額ベッド室に入院した場合

救急患者など病状が重く安静が必要な者、免疫力低下のため感染症にかかりやすい患者、集中治療を実施する必要がある患者などが該当します。

 

・ 病棟管理の必要性により、差額ベッド室に入院した場合

いわゆる大部屋が満床のため、やむを得ず差額ベッド室に入室させた場合などです。

 

トラブルが多い差額ベッド代

さて、患者が希望しない限り差額ベッド代はかからないのですから、本来であれば全く問題はないはずです。しかし差額ベッド代に関するトラブルは少なくありません。

 

東京都福祉保健局の発表した令和4年度「患者の声相談窓口」実績報告によると、特定機能病院(高度な先端医療を提供する病院)では、相談・苦情の総数421件のうち差額ベッド代に関するものが29件(6.9%)ありました。なぜ、このようなトラブルが起こるのでしょうか。

 

ポイントは患者の「同意」

差額ベッド代がかかるか否かは「患者が同意したかどうか」で判断されます。厚生労働省の通達にも「患者の自由な選択と同意に基づいて行われる必要があり、患者の意に反して特別療養環境室に入院させられることのないようにしなければならない」と明記されています。

 

「同意」したことになりがちなケース

入院時に、病室の希望について、第1希望から第3希望くらいまでを書面で回答させることがあります。このとき、第1希望を大部屋にしても、第2希望に「4人部屋」、第3希望に「3人部屋」と記入してしまえば「本人が3人部屋を希望した」と解釈されても仕方ありません。

 

「同意」してしまう入院中の事情

そして、第1希望だけを書いたときでも、病院スタッフに「一応、第2希望まで書いておいてくださいね」などと言われれば、つい記入してしまう人もいるでしょう。

 

入院した患者は、病状や今後の経過、処置、場合によっては手術なども控え、不安を抱えている人も多いはず。そうしたとき、これから世話になる病院のスタッフに、強い主張はしにくいものです。また病状によっては判断力が鈍っていることもあり得ます。

 

署名してしまったときの対処法

そのような状況で不本意ながらも同意書に署名してしまったときは、難しいかもしれませんが、まず病院スタッフに相談してみるとよいでしょう。納得いかない場合は、都道府県の相談窓口などに事情を伝えることもできます。

 

うっかり「同意」しないために

とはいえ、やはり最初から、意に反する「同意」をしないことが肝要です。言いにくい状況はあれども、差額ベッド室を希望しない旨を病院スタッフにはっきり伝えること、そして署名する書類には必ず目を通すことも必須です。

 

具合が悪いときは急いで署名せず、少し時間をおくとよいかもしれません。また、書面をスマホなどで撮影し、友人や家族に送信してチェックしてもらうなど、周囲の人を頼ることも有効でしょう。

 

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