サポーターが夢見る「AFC東西分割案」に潜む残酷な罠
広大すぎる移動距離や中東優位とされるレフェリングへの不満から、日本のサポーターの間では度々「AFC(アジアサッカー連盟)の東西分割案」が浮上する。しかし、この一見スマートに見える解決策には、日本にとって残酷な罠が潜んでいる。
仮にAFCが東西に分割された場合、今大会の「8.5枠」が単純に「4、4」で均等に分けられるとは考えにくい。FIFAランキングや近年の実績、そして中東勢の政治力を考慮すれば、東アジアが「3枠」、中東を中心とする西アジアが「5枠(または5.5枠)」といった傾斜配分になるのが現実的だ。
この「東アジア3枠」という設定は、日本、韓国、オーストラリアの3強にとって、W杯予選が毎回命がけのデスゲームになることを意味する。世代交代の失敗や主力の負傷といった不測の事態が一つ起きるだけで、3カ国のうちどこか1チームが確実に本大会出場を逃す。
さらに、ここに割って入ろうとするライバルたちの足音も不気味だ。莫大な投資を続ける中国や不気味な存在感を放つ北朝鮮に加え、近年では欧州ルーツの選手を大量に帰化させて急成長を遂げているインドネシア、着実に力をつけるタイやベトナムなどのASEAN新興国が控えている。これらを相手に「常に3枠以内を維持し続ける」というのは、決して容易なミッションではない。ファンやメディアにとっては極上のエンターテインメントであっても、W杯出場を前提にビジネスを組んでいる各国協会にとっては、あまりにリスクが高すぎる選択肢なのである。
「環太平洋連盟案」を阻む北米3大国の既得権益
もう一つの壮大なアイデアとして、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN諸国に、アメリカ、カナダ、メキシコを巻き込んだ「環太平洋連盟案」を支持する声もある。確かに競技レベルや商業的価値の面では非常に魅力的な枠組みに映る。
しかし、これも実現の可能性はほぼゼロに近い。なぜなら、北米の3大国(アメリカ、メキシコ、カナダ)にとって、現在の北中米カリブ海連盟(CONCACAF)を離脱するメリットが皆無だからである。彼らは移動の負荷が少ない現在の環境において、圧倒的な優位性を保ったまま比較的容易にW杯出場権を確保し、地域の放映権ビジネスを牛耳っている。わざわざ太平洋を渡る過酷な長距離移動を受け入れ、日本やオーストラリアと限られた枠を奪い合う理由はどこにもない。
結論:肥大化した現状こそが、日本にとって最も「都合の良い」システム
移動の過酷さや政治的な立ち回りの難しさなど、現在の巨大なAFCに対する不満は尽きない。だが、裏を返せば、1次リーグでどれだけ躓こうとも、最終的には地力のある国が順当に生き残れる「8.5枠」という巨大なバッファがある現状こそが、日本にとって最も安定してW杯に出場し続けられる「都合の良いシステム」なのだ。
他大陸からの批判をかわし、アジア全体のレベルアップを図るためには、連盟の枠組みという「制度」をいじるのではなく、この守られた環境の中で個々のチームが世界のトップと渡り合える「真の実力」を磨くほかない。ピッチ外の政治とピッチ内の現実を見据えた時、私たちが戦うべき舞台は、やはりこの広大で混沌としたアジアの枠組みの中にしかないのだ。
