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【メディア分析】「小学館スキャンダル」で問われるガバナンス―― 「独立国」化した編集部と雑誌パッケージ解体の果てに <連載:アニメノミライ・ねとらぼ支店>

【メディア分析】「小学館スキャンダル」で問われるガバナンス―― 「独立国」化した編集部と雑誌パッケージ解体の果てに <連載:アニメノミライ・ねとらぼ支店>

富の源泉「編集部」が持つ絶大な権力と「独立国」化

 なぜ、編集部レベルで暴走が起きてしまうリスクがあるのでしょうか。ここで、小学館のサイトにある部署・職種の紹介図を見てみます。

 小学館をはじめ大手マンガ系出版社の多くは非公開(非上場)企業のため、詳細な組織図などは開示されていません(こうした外部の目が入りづらい企業形態が、組織の自浄作用がなかなか確立されない一つの理由でもあります)。そのため、これは就活学生向け採用サイトからの引用となりますが、大まかな構造は読み取れます。

 図を見ると、「編集」部門を起点にして、その周囲に「営業」「宣伝」「デジタル」「版権」「事業」といった各部門が配置されています。これは、富を生む源泉である「作家」との窓口となる編集部が、事業展開において極めて大きな力を持っていることも示しています。

 そして、かつての出版社において、マンガ編集部は雑誌という強大なメディアパワーを背景に、良くも悪くも「独立国」のような存在でした。名物編集長が絶対的な権力を持ち、出版社や作家に対しても強い影響力を行使していたのです。

 例えば、『北斗の拳』などを立ち上げた元『週刊少年ジャンプ』編集長の堀江信彦氏は、過去のインタビューで、原哲夫氏の初期連載時、作家の才能をさらに引き出すために「本人に相談することなく独断で連載終了を進めた」という主旨のエピソードを語っています。これは当時の編集者・編集部が、作家のキャリアすら左右する強い権限を持っていたことを示す象徴的な例です。

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 一方で、その強固な体制下において、個々の担当編集者はあくまで雑誌という巨大なパッケージを支える「黒子」に徹していました。編集者のスキルアップはもちろん、作家との過度な癒着を防ぎ、雑誌としての一体性を保つため、その担当替えも頻繁に行われていました。例えば国民的マンガ『ONE PIECE』(尾田栄一郎氏)の場合、1997年の連載開始から現在に至るまで、約2〜3年周期で十数人もの歴代担当者が入れ替わっていることはファンの間でも有名です。

 かつては「雑誌の看板」と「編集長」という絶対的な重石があり、編集者の担当替えというシステムによって、個人の暴走を防ぐ組織的な管理(ガバナンス)が編集部の中で機能していたと言えます。

メディアの歴史的変化:「雑誌」から「レーベル」への移行

 しかし、メディアのデジタルシフトがこの構造を変質させました。

マンガメディアの変化・略年表

年代、メディアの変化と主な出来事

1990年代(マンガ雑誌の黄金期)、紙の雑誌が強力な求心力を持っていた時代。『週刊少年ジャンプ』(集英社)は、1995年3・4合併号で最高発行部数653万部を記録。当時、『Dr.スランプ』などを担当した鳥嶋和彦氏をはじめとする「名物編集者」たちが、強固なシステムの中で作家を発掘・育成。

2000年代(デジタル化の萌芽と雑誌の苦境)、フィーチャーフォン向けの電子コミック配信が本格化。『月刊少年ジャンプ』(2007年)、『週刊ヤングサンデー』(2008年)など、かつての看板雑誌が相次いで休刊に追い込まれるなど、紙の雑誌の苦境が鮮明になり始める。

2010年代(電子マンガ誌・アプリの創刊ラッシュ)、スマートフォンの普及に伴い、主戦場はアプリへ。2013年の『LINEマンガ』、2014年の『少年ジャンプ+』や『マンガワン』などが次々と産声を上げる。

2020年代(雑誌パッケージの解体)、出版科学研究所が発表した最新データによれば、2025年の電子コミック市場は5273億円に達し、コミック市場全体(6925億円)の約76%を電子が占めるまでに成長。また、『SPY×FAMILY』や『怪獣8号』(ともに集英社)など、紙の雑誌を経由しないデジタル発のメガヒット作が業界のスタンダードとなる。

 現在起きている本質的な変化は、単に媒体が紙からデジタルへ移行しただけではありません。編集部がコントロールし、作品を流通させる単位が「雑誌」という一つの強固な箱から、「レーベル」へと移り変わったことです。

 かつては、出版社が完全にコントロールできる自社ブランドの「雑誌」があり、読者も「人気の『ジャンプ』だから毎号買う」といったパッケージ単位の消費スタイルが主流でした。しかし現在、各出版社からは、「マガポケ」(講談社)や「ビッコミ」(小学館)、「カドコミ」(KADOKAWA)といった、複数の雑誌を相乗りさせた、いわば新電子雑誌レーベルのようなアプリやWebに作品を集約させる展開も増えました。

 また中堅・中小出版社でも、新潮社、双葉社、マッグガーデンのように、紙の雑誌の発刊そのものを止めて、Web媒体に連載を集約する例も珍しくありません。『ピッコマ』や『LINEマンガ』、『コミックシーモア』のような外部の巨大電子プラットフォームにも連載最新話を初出しで提供し、その強い影響下に置かれる外部連携「レーベル」による展開の比重も上がっています。

 これに伴い、読者の消費スタイルも「この作品が面白いから続きを読む(課金する)」という、個別作品への直接的な評価へと移行しました。そのため、編集者には純粋な「面白さ」の追求と同時に、作品単位での露出を増やし、電子書店で上位にフィーチャー(特集・推薦)されるためのプロデュース力が強く求められるようになっています。

 雑誌時代のような物理的なページ数の制約がなくなった一方で、オンライン上での遍在(あらゆるプラットフォームで面を取ること)を目指して、供給すべき作品数は爆発的に増大しました(※)。編集部と編集者の役割は大きく変わり、この激変した環境と膨大なタスクに否応なく対応を迫られることになったのです。

※注: 一例として紙の『週刊少年ジャンプ』はページ数の物理的制約から、同時に連載できるのは約20作品前後です。一方、同じ集英社のデジタル媒体である『少年ジャンプ+』は、物理的制約がないため、毎日更新で70本以上のオリジナル作品を同時連載しており、さらに年間約300本の新作読切を供給しています(集英社2024年発表)。1つのプラットフォームだけでも、紙の雑誌の3〜4倍以上の作品を常に回している計算になります。

配信元: ねとらぼ

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