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闇は光より速い――光速を超え無限大へ向かう「特異点」を発見

闇は光より速い――光速を超え無限大へ向かう「特異点」を発見

遅い波だからこそ、速い闇が生まれる

遅い波だからこそ、速い闇が生まれる
遅い波だからこそ、速い闇が生まれる / 光速以下(V<C)と超光速(V>C)が論文の図に書き込まれている部分を拡大したもの/Credit: Bucher et al., Nature (2026)

そもそもの話、なぜ研究チームは、わざわざ光が真空中の100分の1まで遅くなる素材を選んだのでしょう。直感的には「光より速いもの」を見つけたいなら、できるだけ速い光を使えばよさそうです。

ところが論文には、この実験の本質を一言で言い当てる、表現があります。

「これらの見かけ上の超光速度は、ポラリトンの遅い群速度によって、逆説的に増幅される」

遅い波を使うから、速さにブーストがかかる――

波がゆっくり進む素材の中では、波同士の干渉模様が複雑に絡み合い、振幅がゼロになる「打ち消し合いの場所」が、わずかな波の変化で大きくジャンプするようになります。

波そのものは遅いのに、波が打ち消し合う場所の位置は、波の進行とは無関係に、極端に速く動けるのです。

窒化ホウ素の中では波そのものは光速の100分の1とのろのろですが、波同士の干渉が作り出す「振幅ゼロの場所」は、波の進み方とはまったく別のルールで動けるのです。

しかも波が遅い分、ちょっとした波のゆらぎで「ゼロの場所」が大きく飛び跳ねる。これが論文の言う「逆説的な増幅」の正体です。

もう一つは、波の塊そのものが進んでいく速度。波がエネルギーを実際に運ぶときのスピードです。

普通は、この2つの速度はだいたい同じです。ところが窒化ホウ素の中では、山と谷の模様だけが、波の塊の12倍の速さで走っている。模様だけが先にスーッと走り抜けて、波の塊は置いてけぼりでのろのろ進む――そんな奇妙な状態なのです。

そして、暗闇の点は「波の塊」ではなく「山と谷の模様」のほうにくっついて動きます。模様が速く動けば、模様が打ち消し合う場所も、それに引っぱられてものすごい速さで位置を変える。

つまり窒化ホウ素は、暗闇の点の超光速ダンスをスローモーションで拡大して見せてくれる装置として働いていた、ということなのです。

そしてこの事実は応用にも繋がります。

論文は、超流体(絶対零度の近くで、永遠に流れ続ける不思議な液体)や、超伝導体(電気抵抗がゼロになる物質)、お風呂の栓を抜いたときの渦、さらには地球の上の台風までもが、同じ数学的な枠組みで記述できると指摘しているのです。

光、流体、超伝導体などの中で、渦や欠陥が消える直前に似た加速的な特徴が現れることがある――今回の発見は、そんな普遍性の存在を示しています。

カミナー教授は「私たちの発見は、音や水の流れから、超伝導体のような複雑な系まで、あらゆる波に共通する自然の普遍的な法則を明らかにしているのです」と述べています。

つまりこの発見、実は光だけの話ではないのかもしれません。波という波すべてに共通する、より深い宇宙のルールを、たまたま光と原子の振動が混ざった奇妙な素材の中で、人類が初めて鮮明に捉えた――そういう話なのです。

今回の実験は、薄い膜の中で行われました。つまりぺらぺらの平面の世界での出来事です。研究者たちは次に、私たちが住んでいる立体の空間に話を拡張しようとしています。

立体の世界では、暗闇は「点」ではなく「糸」のような形になります。位相が定義できない場所が、空間の中に細い線として走っているイメージです。

その糸がもつれ合ったり、結び目を作ったり、ほどけたりしながら踊り回る――そんな未知のダンスが待っているはずだと考えられています。

さらに、暗闇の点は将来的に情報を符号化する研究へつながる可能性があります。

情報を「右巻きか左巻きか」という渦の向きに刻んでおけば、ちょっとした雑音では消えない、頑丈な記憶素子に応用できるかもしれない――そんなアイデアが研究されているのです。

そして何より、カミナー教授はこう語ります。

「この新しい顕微鏡技術によって、物理学・化学・生物学に隠れた、まだ誰も見たことのない出来事を観察できるようになると信じています。自然が、その最も速く、最も捉えがたい瞬間にどう振る舞うのか――人類は、それを初めて目撃することになるのです」

もっと素早く撮れる顕微鏡が登場すれば、光速を何桁も上回る速度で動く暗闇の点を観察でき、それらすべてを、相対性理論を破ることなく観察できる、と論文は静かに予言しているのです。

つまり、空間でも時間でも、波は私たちが思っている以上に「無理が利く」存在だった――。

波の中には、私たちが見過ごしていた極端な振る舞いが、まだあちこちに潜んでいるのかもしれません。

参考文献

Novel measurement confirms a 50-year-old prediction: Dark points are faster than light
https://phys.org/news/2026-03-year-dark-faster.html

元論文

Superluminal correlations in ensembles of optical phase singularities
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10209-z

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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