「『アクティブ・ノイズ・キャンセリング(ANC)』やBluetoothについて詳しくて、ドイツのアウトバーンでテスト走行できる人を探しています」との連絡をもらった。筆者は今はアップル製品などガジェット系の記事を書いているが、元はバイク雑誌の編集者・テストライダー。そんなピッタリのオファーをもらったら、行かないわけにはいかない。というわけで、バイクウェアを用意してドイツに飛んだ。

向っかたのはドイツのほぼ南端、ドイツアルプスの懐に抱かれるミュンヘンから、クルマで1時間ほどのところにあるシュトラウビング(Straubing)という小さな街。

このあたりは、昔BMWの取材でよく来た場所だ。R1100RT(1995年)の発表会では、ミュンヘンからニュルンブルグや、ドイツアルプスを巡る1週間の試乗旅だったし、テストライダーやテストコースを取材させてもらったことがある懐かしい土地だ。

シュトラウビングはドナウ川のほとりの歴史ある小さな街。そこに、Cardo Sound Labs(CSL=カルドサウンドラボ)がある。
インカムブランドとして世界一のCardo
Cardo(カルド)という会社自体と、その新世代ヘルメット『Beyond(ビヨンド) GT/GTS』、そして今回取材にうかがったCSLについては、詳しくは別項で語るので、ここでは簡単に。

『バイク乗りながら会話する』を実現するCardoの研究施設、ドイツの『CSL』
2026年05月08日
Cardoというのは世界で一番売れているインカムのメーカー。ヘルメット外部に本体を固定し、内部にマイクとスピーカーを仕込むことによって、音楽を聞いたり、仲間と会話したりすることが可能になる。

仲間との直接通信や、スマホとの接続にはBluetoothを使う。これにより、昔と違ってバイクでのツーリングは孤独な旅ではなく、音楽を聴きつつ、仲間とコミュニケーションを取りつつ、楽しむものになっている。もちろん、Apple MapsやGoogle Mapのナビの音声も聞くことができる。

そのバイク用インカムの完成形として、今回CardoはANCの搭載に取り組んだ。インカム単体では風切り音やエンジン音を消すことは難しい……ということで、ヘルメット自体を開発することになったのだ。そうして完成したのがBeyondだ。
Beyondは単なるノイズキャンセリングヘルメットではなく、高い安全性、快適な通気性はもちろん、衝突検知と通報システム、ブレーキランプなども搭載したスマートヘルメットとなった。
高速走行時の騒音は、実は耳を痛めるレベル
Cardoによると、ライダーは50km/hで走っている時でさえ85dBAの騒音にさらされている。80km/hになると90dBAになる。
Apple Watchの『ノイズ』アプリは80dB(dBAとは厳密に言えば違うが、ここではほぼ同じとして取り扱う。)で通知が来る。アップルによると1日に30分以上90dBの音にさらされると一時的な難聴になる恐れがあるという。

さらに100km/hだと94dBA、240km/hだと125dBAにもなる。125dBAは飛行機の離陸時の音に相当し、長時間聞き続けると聴覚に深刻なダメージを負う可能性がある。240km/hというと途方もないスピードに思われるかもしれないが、前述のR1100RTの試乗会の際には、アウトバーンを240km/hぐらいで数時間走り続けた日もあった。

また、日本で出せる速度である100km/hでも94dBAなのだから、十分に耳に負担を与えていることになる。
実はバイク乗りの耳は、常に爆音にさらされているのだ。若い頃は思わなかったが、歳を重ねると、その影響が出るのではないかと不安になる。
CardoがインカムのANCに取り組んだのもそういった理由があるらしい。もちろん、走行中に快適に通話するために、風切り音などを抑制するためにも必要だ。