AI相場に浮かれる投資家との決定的な違い
さらに東京海上である。これもまた、実にバフェットらしい。
保険とは、平時には退屈に見える商売だ。しかし有事には、リスクを引き受ける能力そのものが価値になる。戦争、災害、サイバー攻撃、物流混乱、気候変動、地震、豪雨、企業賠償。世界が不安定になるほど、保険の意味は重くなる。
しかも東京海上は、日本国内だけの保険会社ではない。海外事業を広げ、巨大災害や企業リスクを引き受けるグローバルな保険グループである。そこにバークシャーの保険・再保険の資本力が重なる。これは単なる株式投資ではなく、リスクの時代そのものへの投資である。
ここが、AI相場に浮かれる投資家との決定的な違いだ。
いま日本では、高市政権がAIやセキュリティ分野で経済成長を目指すという。しかし、米国と中国のAI企業は、毎年、数兆円から数十兆円規模の資金を投じている。
GPU、データセンター、電力、人材、基盤モデル、クラウド、サイバー防衛。その投資規模も速度も、日本とは桁が違う。日本には優れた研究者も、精密なものづくりも、産業現場のデータもある。
しかし、基盤モデル、計算資源、資金力、リスクマネーの厚み、そして実装速度で、米中に大きく遅れているのは否定しがたい。
それにもかかわらず、日本市場では「AI関連」というだけで株価が何倍にも化ける銘柄がある。だが、実が伴っていない“なんちゃってAI関連銘柄”は、相場の逆回転が始まれば、真っ先にメッキを剥がされるだろう。
防衛能力そのものが、世界水準から大きく遅れている
AIは本物の産業革命である。しかし、本物であるからこそ、偽物も大量に生まれる。
鉄道ブームでも、インターネットバブルでも、再生可能エネルギーでも、必ず同じことが起きた。テーマが本物であることと、すべての関連銘柄が本物であることは、まったく別の話なのである。
サイバーセキュリティも同じだ。日本企業はランサムウェア攻撃に晒され、業務停止、情報流出、信用失墜に苦しんでいる。しかも、実際の現場は、政府や市場がイメージするほど“強固”ではない。
私はセキュリティ分野の当事者から直接話を聞いたが、現場では「約8割の企業が最終的に身代金支払いに応じている」と言われている。もちろん表には出ない。公表できない企業も多い。
しかし現実には、復旧停止期間、信用低下、顧客離れ、業務麻痺を考えれば、「払ったほうが損失が小さい」という判断に追い込まれるケースが少なくないという。
つまり、いま日本企業で起きていることは、“防衛”というより、“やられた後の損失処理”なのである。しかも深刻なのは、そのための予算を、事実上あらかじめ織り込む企業まで出始めていることだ。
これは、もはやAIやセキュリティを成長産業として語る以前に、日本企業の防衛能力そのものが、世界水準から大きく遅れていることを示している。

