円安をも味方につけたバフェット
バフェットは、そういう“言葉で膨らむ物語”には簡単に乗らない。彼が買うのは、現金を生む事業であり、実物資産であり、長期にわたって社会から必要とされ続ける仕組みである。
商社は資源と物流の要であり、東京海上はリスクを引き受ける装置である。どちらも、地味で、古く見えて、実はこれからの時代に極めて強い。
しかも、彼は円安も味方につけた。日本全体から見れば、過度な円安は購買力を奪い、輸入価格を押し上げ、物価高倒産を増やす。しかし、外貨収益を持つ商社にとっては、円安が利益を押し上げる面もある。
さらにバークシャーは円建て債を活用し、低コストの円資金で日本株に投資するという、実に巧みな構造を作った。日本人が円安で苦しむ一方で、バフェットは円安を利用して、日本の外貨獲得企業を買っていたのである。これは皮肉だが、投資としては見事と言うほかない。
いまの市場はAIに酔っている
私は、バフェットが戦争を予言していたと言いたいわけではない。
しかし、彼は少なくとも、平和と低インフレとグローバル化が永遠に続くとは考えていなかったのではないか。世界はもっと荒れる。資源はもっと重要になる。物流はもっと詰まる。保険はもっと高くなる。リスクを引き受けられる資本の価値は上がる。
そう考えれば、総合商社と東京海上への投資は、きわめて整合的である。
いまの市場はAIに酔っている。だがバフェットは、AIの夢ではなく、AIを支える電力、資源、保険、物流、現物の世界を見ていた。多くの投資家が空を見上げている時に、彼は地面を見ていたのだ。そして、その地面こそ、いま静かに揺れ始めている。
日本では既に、物価高倒産の連鎖が静かに始まりつつある。しかし、多くの人はまだ、その深刻さを実感していない。なぜなら、倒産には必ずタイムラグがあるからだ。
企業は原材料価格が上がった瞬間には倒れない。まず内部留保を削る。借入を増やす。値上げを我慢する。支払いサイトを延ばす。つまり、“体力で時間を買う”。だから、いま表面化している倒産件数は、数カ月前の原材料高、燃料高、物流費高騰の結果に過ぎない。

