日本市場ではAI関連株だけが熱狂的な買いを集めている
AI時代において、中国は単なる地政学リスクではない。巨大市場であり、巨大生産基地であり、巨大AIプレイヤーでもある。本来であれば、日本は米中対立の狭間で、極めて冷静かつ現実的な外交バランスを求められる局面に入っている。
しかし現実には、政権は台湾有事発言を繰り返す一方で、日中関係悪化については、ほとんど踏み込んで語ろうとしない。なぜか。安全保障強硬論のほうが、国内支持率に直結しやすいからである。
しかし、市場は本来、感情ではなく、現実で動く。中国経済減速、中国不動産問題、米中分断、サプライチェーン再編。日本企業はそのすべての影響を真正面から受ける立場にある。
しかもAI時代に必要なレアアース、電池材料、電子部品供給網まで考えれば、中国との関係悪化は、日本経済そのものに直結する。
にもかかわらず、日本市場ではAI関連株だけが熱狂的な買いを集めている。ここが恐ろしい。株価だけを見ると、日本もAI革命の中心にいるように見える。しかし実態は違う。
上がっているのは、AIに関係ありそうな株である。半導体関連、電線、電力、データセンター、冷却。AIという単語が決算資料に入るだけで買われる。しかし、それはAI文明を支配していることとは全く違う。市場はそこを混同し始めている。ここがバブルの怖さだ。
ITバブルもそうだった。リーマンショック前もそうだった
市場で最も危険なのは、皆が同じ未来を信じ始めた時である。ITバブルもそうだった。リーマンショック前もそうだった。皆が「今回は違う」と言い始めた時、市場は最も脆くなる。今回も同じだろう。
AI革命そのものは本物である。世界を変える。仕事を変える。国家を変える。しかし、それとAI関連株が永遠に上がり続けることは全く別問題だ。むしろ私は逆に思う。今のAI相場は、世界経済の弱さを覆い隠す巨大なメッキになっているのではないか、と。
現実には、世界中で中間層は疲弊している。猛烈なインフレ、住宅価格高騰、実質賃金低下、物流コスト上昇、エネルギー不安、債務膨張、更にAIデータセンター急増による電力不足、水不足、送電網問題まで始まっている。
スーパーでは値札を見て商品を棚へ戻す光景が珍しくなくなり、地方ではガソリン価格そのものが生活コストになっている。電気代、通信費、外食、教育費、保険料。生活のあらゆる場所で「静かな値上げ」が続いている。
日本円の価値は歴史的低水準に沈み込んでいる
それでも市場だけは、AI革命で未来は明るいと言い続けている。つまり現実社会は、決して強くない。それなのに、株価だけがAI期待で爆上げしている。私はそこに、バブル末期特有の危険な静けさを感じる。
日経平均は史上最高値を更新する。しかし、その一方で、日本円の価値は歴史的低水準に沈み込んでいる。この異様な光景を、「我々は本当に豊かになった」と言ってよいのだろうか。
AI関連株は上がる。半導体株も上がる。だが、国そのものの購買力は落ちている。つまり今、日本市場で起きていることは、国力低下と株高の同時進行なのである。
これは極めて危うい。なぜなら、市場は最後まで幻想を買い続けるからだ。そして、幻想が最も膨らんだ瞬間に、相場は必ず逆回転を始める。
先日、日本へAIエンジンを最初期に持ち込んだ友人と話していた時、こんな言葉が返ってきた。彼は現在、日本を代表する企業群ともAI戦略を議論しているという。その彼が静かに漏らした。
日本という国の存在感そのものが危うくなる
「今、日本企業のAI戦略に関わっていて感じるのは、技術競争というより、“国家そのものの競争”へ変わり始めていることです。しかも、日本はその変化にまだ本気で気付けていない気がする」
更に彼はこう続けた。
「近い将来、世界は一気に様変わりするかもしれない。私は正直、日本という国の存在感そのものが危うくなる可能性すら感じています」
私はその言葉が忘れられない。AI革命は、おそらく本物だろう。しかし、本当に恐ろしいのは、その革命の中心に、日本がいない可能性がかなり高くなりそうなことである。
文/木戸次郎 写真/shutterstock

