直言する国防相を、参謀総長が返り討ちに
自分の頭越しに文民が真実を吹き込んだと知って、参謀総長は態度を硬化させ、参謀本部はベロウソフ包囲へと動き出す。前線の補給が滞るのは国防相の失策だと、ゲラシモフはそう責任を転嫁してみせた。
だが同メディアによれば、当の参謀総長が大統領に上げてきた戦果は、実際の前進の何倍にも水増しされているという。真実を告げた者が咎められ、数字を膨らませた者が居座る。ロシア軍の権力構造は、そんな倒錯の上に成り立っている。
しかも、この内紛は「ゲラシモフvs文民国防相」の対立にとどまらない。過大な戦果報告と消耗戦の強要を続けるゲラシモフに対しては、制服組の内部、とりわけ前線の司令官クラスからも不満が噴出しているとされる。
参謀本部は旧態依然の正面攻撃を命じるばかりで、兵員の損耗に見合う戦果がまったく挙がらない。
こうした批判は、ロシア軍の失態を暴いてきた軍事ブロガーらの間でも公然と語られ始めており、ゲラシモフは文民国防相と現場将校の双方から挟み撃ちされる形で、軍内での孤立を深めつつある。
さらに事態を複雑にしているのが、動き出した停戦交渉への軍の不満だ。
「驚くほど停戦に前向きだった」ロシアの人物とは…
制服組の強硬派は「ウクライナ東部・南部4州の掌握なき停戦は、数十万の犠牲を無駄にする事実上の敗北だ」と反発し、交渉の枠組みづくり自体を潰しにかかっているという。
ゲラシモフにとって、戦果の裏付けがないまま交渉のテーブルに着くことは、過大報告の露見と自らの責任追及に直結しかねない。強硬論の背後には、こうした保身の思惑も透けて見える。
対照的にベロウソフは、燃料危機に象徴される経済の疲弊を直視し、現実的な落としどころを探るべとの立場とされる。
二人の争いは人事抗争から交渉方針をめぐる路線対立へと拡大し、プーチンは戦果なき停戦を拒む軍と、経済の限界を訴える文民との板挟みに陥っている。
しかも、亀裂は参謀本部の足元にまで及んでいる。軍参謀本部情報総局(GRU)のコスチュコフ長官は、ウクライナとの停戦交渉にロシア側代表として加わるようになった。
交渉の席で向き合ったウクライナ政府関係者は、コスチュコフが驚くほど停戦に前向きだったとの印象を持ち帰ったという。参謀総長が交渉潰しに動く一方で、足元の情報機関の長は停戦へ傾く。参謀本部はもはや一枚岩ではない。

