ルテインの摂取で黄斑変性の進行が抑制

黄斑とは、目に入ってきた光が像を結ぶ網膜の中心部にある組織です。この黄斑が、加齢や生活習慣の影響を受けて変性し、物が見えにくくなる疾患が、「加齢黄斑変性」です。

昔の日本では、この病気にかかる人は現在よりも低い割合でした。しかし、そんな日本でも、食が欧米化されるとともに加齢黄斑変性にかかる人が非常に増えてきました。そういった背景を考慮すると、生活習慣病の1つといってもいいでしょう。

逆にいえば、生活習慣病だからこそ、食を変えることで、加齢黄斑変性にいい影響を及ぼすことができます。

では具体的に、どんな物を食べればよいでしょうか。まず、2001年、アメリカで行われた大規模臨床試験・AREDSについて触れておきましょう。

この研究では、抗酸化ビタミン(ビタミンCやE)、βカロチン、亜鉛などのサプリメントを取り上げ、それが加齢黄斑変性の進行を抑えられるかどうかを調べました。

片方の目が加齢黄斑変性になると、もう一方の目のリスクも高まります。

のちのち加齢黄斑変性を発症する前触れともいえる病変をドルーゼンといいます。このドルーゼンが片方の目にあると、5年以内にもう一方の目に発症する確率が18%とされています。また、片方の目がすでに加齢黄斑変性になってしまっていると、もう一方の目には、43%の確率で発症します。

このドルーゼンが片方の目に確認できた人たちに、上記の配合のサプリメントを飲んでもらったところ、残りの目に発症する確率が25%も抑えられたのです。病気によって視力が低下する率も低くなりました。

ただし、その後の調査で、βカロチンのとり過ぎは肺がんのリスクを高めるという報告があったため、それに替わるものが検討されるようになりました。そこで注目されるようになったのが、ルテインとゼアキサンチンという成分です。

これら2つの成分を含んだサプリの効果が調べられたのが、2013年に実施されたAREDS Ⅱでした。この調査の結果、これらのサプリが加齢黄斑変性の進行を抑制することが確かめられました。同時に、βカロチンの過剰摂取による肺がんリスクも抑えられたのです。

ちなみに、この研究でサプリの効果があった人を調べると、そもそも食事でルテインをとっていなかったことが判明しています。こうした結果から、ふだんからルテインをとることが重要だとわかってきました。

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ルテインをとるほど目の黄斑色素密度が向上

ルテインは、もともと目の水晶体や黄斑部に多く含まれている黄斑色素で、2つの重要な作用があります。

1つが青色光の吸収作用です。網膜を障害しやすい青色光をブロックすることで、黄斑を保護します。

もう1つが抗酸化作用です。光を受け止めることで黄斑部に生じる酸化ストレスを消去し、目を守ります。

つけ加えると、そもそもルテインは、体内で合成できない成分です。ですから食事で摂取するほかありません。ルテインを含む食材としては、ケールやホウレンソウなどがあります。ルテインを含む食材をとると、それが腸から吸収され、血液に乗って運ばれ、目に届けられると考えられます。

ホウレンソウはルテインが豊富

黄斑色素の密度を測ってみると、加齢黄斑変性の人は、健康な目の人より黄斑色素の密度が下がってしまっています。そして、ルテインをたくさんとっている人ほど、目の黄斑色素の密度が上がってくるのです。

以上のようなデータを踏まえて、私たちは、ルテインを多く含有している寒締めホウレンソウ(通常の3倍の含有量)を使って臨床研究を行いました。

21~45歳の健康な、非喫煙者11名に協力いただいて、75gの冷凍ホウレンソウ(ルテイン10mg含有)を、2ヵ月にわたって、毎日食べてもらいました。

その結果、血液中のルテイン含有量は、実験開始前が、0.23μg/mlであったのに対して、1ヵ月後には、0.29μg/mlに上昇。2ヵ月後も同じレベルで維持できており、有意差をもって、血中のルテイン量が増えていることがわかりました。

さらに、そのルテインが目に影響を与えていることも確認できました。目におけるルテインなどの黄斑色素密度は、実験開始前0.47だったものが、1ヵ月後0.53、2ヵ月後には0.54まで上昇していたのです。

つまり、サプリメントのかわりに食品からルテインを摂取することで、黄斑部の黄斑色素の含有率を上昇させることが明らかになったのです。

加齢黄斑変性を発症していない人や、加齢黄斑変性になる前段階のドルーゼンが見つかってもまだ小さめの人は、食事に気を遣うことが肝心です。ホウレンソウなどを積極的に摂取すれば、予防に役立てることができるでしょう。

ちなみに、いわゆる地中海食を実践することで、加齢黄斑変性の進行を抑制する効果があるという研究もあります。

ただし、この研究によれば、地中海食でよく使われるオリーブオイルや魚を単品でたくさんとったり、赤ワインをがぶ飲みしたりしても、効果的ではないとされています。

バランスよく、有効な栄養を摂取することが加齢黄斑変性を防ぐ基本といえます。先述の実験で使用した、寒締めホウレンソウなどもお勧めです。

この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。

画像参照:https://www.makino-g.jp/book/b605811.html