突如訪れたオペ室の洗礼

──配属早々、切断した足を持たされたそうですね。

下肢切断術(壊死した足を切断する手術)を見学していたら「せっかくだから外回りの仕事を体験してみてよ。これを箱に入れて」と、チェーンソーで切った足を渡されました。

人間の足って想像以上に重たいんです。切断面から脂肪が出てぬるぬるするし、滑るんですよ。落とさないように必死でしたが、頭の中はパニック状態で、止まっているエスカレーターを歩いているような「いま自分どうなってるの?」と、よくわからない感覚でした。

箱に入れたあともムニムニした肉の感触が残っていて、あのゾワゾワ感は今でも忘れられません……。

──新人にはなかなか強烈ですね……。ほかに大変だった思い出はありますか?

とくにハラハラしたのは、夜間に心臓のカテーテルの緊急手術にひとりで入ったことです。夜勤は看護師3人体制だったのですが、先輩ふたりが別のオペに入っていて、新人の私しかいない状況で患者さんが運ばれてきたんです。先生に指示を仰ぎながらとにかくできることをやりきりましたが、恐怖でいっぱいでした。

人間に心臓マッサージをしたのはそのときが初めてでした。胸の跳ね返りやお肉の厚みがあり、トレーニング用のマネキンとはぜんぜん違いましたね。

つい先日、オペ室で働く夢をみたんです。先輩に「心臓手術の患者さんが来るから、まおちゃん付いて」と言われて、「何も覚えてない! 手順書もない! どうしよう !」みたいな状況で飛び起きました。オペ室で働いたのはたった4年間だったのに、夢に出てくるなんて思いもしませんでした。

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忘れてはいけない看護師としての心得

──実際は壮絶な状況でも、コミカルなイラストとギャグ要素のおかげで重たい雰囲気を感じません。

「リアルな描写の医療漫画は怖くて読めない」という人もいるので、私は臓器もかわいく描いています。初めて見る腸は本当に美しくて感動しました。かわいいピンク色でペッカペカなんです(笑)。


©️人間まお/竹書房

──経験を重ねるなかで、看護師として大切なことに気づく場面が印象的でした。

看護師長から「あなたが足を引っ張ったら困るのは患者さん」と言われたとき、本当にハッとしました。慣れない仕事をしていると「失敗してはいけない」と必死になるじゃないですか。それに囚われすぎると自分本位になってしまうんですよね。どのような状況でも患者さんと向き合っていることを忘れてはいけません。


©️人間まお/竹書房

先輩からは「焦りや不安を顔に出しちゃいけないよ。自信がなくても堂々としていようね」とも教わりました。ただでさえ患者さんは不安なのに、看護師が慌てていたらもっと不安にさせてしまいますから。

オペ室の先輩はベテランばかりだったので、どんな状況でもみんな動じなくてすごいなと思っていました。