「S☆S」はプリキュアを「先細り」にしないための選択
時代の波にのまれてしまった「S☆S」。
しかし、この作品があったからこそ、20年以上にも及ぶ今のプリキュアシリーズの継続があることは間違いありません。
そこには2つの理由があります。
1つ目は「なぎさとほのかの“ふたりはプリキュア”から脱却」した点です。
キュアブラックとキュアホワイトを続けての「3作目」を作ることも考えられていた(むしろこれまでの女児向けアニメではそれが定番だった)のですが、鷲尾プロデューサーは「プリキュアをシリーズとして育てていくためには世界観とキャラを変える必要がある」とし、「S☆S」を作ったと後に語っています。
鷲尾 ブラックとホワイト、ルミナスを残して番組を継続するという従来通りの女児アニメの継続の仕方も選択肢としてありました。だけど、それではいずれ、数年後に先細りになるかもしれない。そこで『プリキュア』というタイトルを残して世界観とキャラクターを全て変えよう、と関係者と相談して判断したんです。
『プリキュアぴあ』(P85、ぴあMOOK)
従来の女児向けコンテンツの常識を捨て、「キャラと世界観を一新する」という決断はまさに「S☆S」から始まり、結果的に「毎年新しいプリキュアが登場するシリーズ構造」の原型となりました。
苦戦から生まれた「攻めの姿勢」
2つ目として、これは結果論になりますが「『S☆S』の2年目を作らなかった決断」にあります。
制作者サイドとしては、途中までは「S☆S」の「2年目」を想定し、準備を進めていたことが明かされています。
鷲尾 私は『Splash☆Star』の2年目を考えていたんですが、さまざまな周辺状況の中、1年で終わらざるを得なくなってしまった。私自身、この作品も2年続くと思い込んでいた慢心と油断があったと思います。でも、内容としては充実した良い作品をみんなでつくったという自負は今でもあります。
『プリキュアぴあ』(P85、ぴあMOOK)
しかし、商業的な苦戦が報告されたとき、「S☆S」の「2年目」を継続し、そのままプリキュアを閉じる選択もあった中、制作者側は大きな決断をすることになります。
「S☆S」の2年目を中止し、全く新しいプリキュアを作る決断をするのです。
鷲尾 そんな周囲の状況を受けて、社内では「来年はキャラクターを変更します」という報告をしたら当時の上司から「もう1年やってうまくいかなかったら『プリキュア』は終わるだろうし、鷲尾君もこの枠から離れることになると思う」と言われました。私は「わかりました。ただ四年目が子ども達に受け入れられて継続できたら五年目まではやりたいです」と話しましたね。「プリキュア5」は社内的にも背水の陣でした。
『プリキュア シンドローム!<プリキュア5>の魂を生んだ25人」(P76、幻冬舎)
「次がうまくいかなかったらプリキュアが終わる」と宣言された中、「プリキュアの本質」を徹底的に研究して生まれたのが翌年の「Yes!プリキュア5」です。
大胆なカラー別チーム制の導入や、おもちゃメーカー、出版社、音楽メーカーなどを集めた「番組制作委員会」的な組織の制定、さらにデータカードダスへの本格参入といった「攻めの姿勢」が生まれ、プリキュアシリーズは大躍進を遂げていくことになるのです。
「S☆S」は、プリキュアの「変えてはダメなこと」「変えないといけないこと」を浮き彫りにし、その決断があったからこそプリキュアシリーズは「伝統を守りながら壊す」という今のスタンスを手に入れることができたのです。

