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【完結】普通の大学生がサーカスに入団したらこうなった / 木下サーカスの思い出:最終回

【完結】普通の大学生がサーカスに入団したらこうなった / 木下サーカスの思い出:最終回

・公演の裏側で

巨大台風からテントを守り抜いた経験は、単に過酷な出来事だったというだけではない。圧倒的な自然の前では、人間にできることなどたかが知れている。それでも仲間と共に暗闇の中で夜を越えた。嵐の夜に仲間の大切さを実感したものだ。

緊迫した状況の中で、忘れられない光景がある。オートバイショーや空中ブランコで活躍する大スター・高原さんが、暗闇の中で激しく揺れるテントの上に立ち、こちらに向かって「こっちは大丈夫やーーー!」と叫んだ。

まさに危険に立ち向かう勇者……なのだが、高原さんが遊園地のエアードームで遊ぶ子供くらい揺れている。死ぬほど安全な場所にいる私とマ〜シ〜は、そんな勇敢な先輩の姿をじっと見つめていた。

当然笑ってはいけない状況である。しかし疲労と緊張が限界を突破していたせいか、激しく揺れる暗闇のテントの上で「大丈夫やー!」と叫び続ける高原さんを見れば見るほど……

強風より笑いをこらえる方が大変だとは。あの日の高原さんは台風より台風だった。

とにかく先輩方は組織のリーダーというより、大家族の長男のような存在だった。3カ月に1度の「場越し」でも、立場が上の人ほど危険な作業を率先して引き受け、前に立つ者ほど動いて背中で示す。その姿を見て、後輩も負けじと仕事を覚えていくのだ。

限られた人数でテントを建て、公演を回していく以上、誰かが手を抜けば必ずどこかにしわ寄せがいく。間に合わないところは先輩がカバーする。そうやって全員で1つの舞台を作り上げていくのが、サーカスという世界だった。

・言葉にして伝えたい

公式サイトの年表によると、私は2004年の横浜公演から2015年の京都公演まで、50カ所の公演地を回ったことになる。

全員でテントを建て、住居エリアを整備し、公演が終わればすべてを自分たちで解体して次の街へ向かう。そのくり返しの中で数えきれないほどの出会いがあり、数えきれないほどの経験を積み重ねてきた。

そしていつしか「この経験を言葉にして伝えたい」と思うようになっていた。サーカスで過ごした日々を多くの人に届けたい、と。

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