民事信託とは?家族信託や商事信託との違いや活用事例をご紹介

財産の管理や相続に向けて、民事信託を活用する人が増えています。生前から自由度を高く財産の管理を委託することができる民事信託について解説します。民事信託の概要や家族信託・商事信託との違い、活用する際のメリット・デメリット、活用事例などを参考にしてみてください。

民事信託の4つのデメリット

民事信託にはメリットだけではなく、当然デメリットも存在します。

損失が出ても損益通算ができない

損益通算とは、一定期間の所得のうち、各種所得の赤字と黒字を合算して最終的な所得を算出することをいいます。損益通算ができる場合には、ある所得の利益から他の所得の赤字額を控除することが可能となり、所得金額の総額を少なくすることができたり、支払うべき所得税も抑えられます。通常の資産運用はこの損益通算を用いることが可能ですが、民事信託で発した損失は、他の所得の利益と相殺できません。そのため赤字計上ができず、所得の黒字がすべて課税対象となってしまいます。複数の民事信託を運用している場合は、他の民事信託とも損益通算はできないので、要注意です。

受託者に身上保護権がない

民事信託では、受託者には、住居や福祉施設への入居、病院の手続きなどを行える「身上保護権」が適用されません。受託者が家族であれば問題ありませんが、家族以外の人が受託者を担っている場合は、成年後見制度を併用し、身上保護権を補填するとよいでしょう。

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適任の受託者を決めるのが難しい

民事信託は、一定の場合を除いて報酬を支払うことができないため、受託者として弁護士や行政書士、司法書士などの専門家を選べないことが難点です。そのため、信頼のおける受託者の指名が困難な可能性があります。

信託財産の利益は別途申告する必要がある

損益通算ができないことは前述しましたが、信託財産で利益が発生した場合も別途申告が必要となります。
信託財産である不動産で家賃収入が発生したり、株式などで運用益が出たりした場合、確定申告を行いましょう。年間3万円以上の収益は、必ず税務署に申告が必要です。

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民事信託の利用の流れ

民事信託を行うには、まず信託契約書を作成します。委託者と受託者、できれば受益者も交えて、委託の内容について協議し、納得してから契約を取り交わしましょう。

必須ではありませんが、信託契約書は公正証書で作成した方が安心です。また、信託財産を扱う専用の銀行口座が必要になるケースも考えられます。

個人間でも取り交わせますが、民事信託には不動産登記や税金などの問題が絡んでくることが多く、内容が複雑になりがちです。揉め事を避けるためにも、予め弁護士や司法書士、税理士など、知識のある専門家に相談するとよいでしょう。

民事信託の活用事例

民事信託がどのような場合に効果的なのか、具体的な事例を紹介します。

柔軟に事業承継や資産承継を行いたい

会社の経営権や株式などの財産を妻に譲渡した後、経営力のある次男に継がせたいと思っている場合、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を活用すれば、二次相続が可能です。

また、子どものいない夫婦において、受託者に自身の甥を、受益者に配偶者を指名することで、配偶者の生活を保障しつつ、先祖代々の土地を直系の親族に継承できます。

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認知症になる前に財産の管理を任せておきたい

認知症を発症すると、生活や介護などに必要なお金を引き出せなくなることがありますが、民事信託で受託者に娘や息子を指名し金銭を渡しておけば、委託者の財産を使用することができます。
財産の管理を任せられるので、詐欺に遭う危険性も減らせるでしょう。

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不動産の管理や相続対策をしたい

不動産の管理を長子に任せたいが、自分の死後は長子と次子に平等に相続させたい場合は、民事信託で受託者に長子を、受益者に自分を、第2次受益者に長子と次子を指名しておきます。

不動産の所有者は、受託者である長子のみなので、自由に売買や運用を行えるほか、不動産から発する利益は平等に分配できます。

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老後に備えて民事信託を活用しよう

高齢化が進み、認知症になるリスクも高まっている現代では、健康なうちに将来を見据えた財産の管理を行う必要があります。
民事信託は、財産管理の自由度が高く、二次相続が可能であるなど、とても役立つ制度です。個人で信託契約を取り交わすことが難しい場合も多いので、一度専門家に相談してみてください。

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堀智弘

堀総合法律事務所代表、大阪弁護士会所属。単独で事務所の代表を務め「経営のわかる弁護士」として中小企業経営者に寄り添うとともに、素早く丁寧で法律論に囚われない柔軟な対応により一般の市民の方々からも好評を得ている。業務は中小企業の支援と相続問題が中心。年間相談件数300件以上。セミナー・講演実績も多数。