マンションのバルコニーもガーデニングを一年中楽しめる屋外空間です。都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って2022年で30年。自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本さんのガーデン・ストーリー。今回は球根で育つ熱帯植物、クルクマを育てたきっかけや、開花の感動と栽培方法についてご紹介します。

クルクマの花に魅せられて

園芸会社のカタログ写真を見ていて、ずっと気になっていた花がある。東南アジアを旅していてよく見かけた、クルクマという名前の花だ。球根で育つ熱帯植物で、都心のマンションのバルコニーで育てられるか心もとなかったので、写真は眺めるだけになっていた。


屋久島の友人から届いたクルクマの切り花。室内で3週間近く楽しむことができた。

それが昨年の夏、屋久島に住む友人からクルクマの切り花がどっさりと送られてきた。自宅の畑で栽培しているという。エメラルド、白、淡いピンクとそれぞれに鮮やかな花色で、花姿もトロピカル! すっかり心奪われ、がぜん育ててみたいという思いに捕らわれた。バルコニーでバナナの木を育てて2年目、うまく冬越しして、たくさんの葉が繁っていることが、背中を押してくれた。

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球根が届いた!

友人に育ててみたいと伝えると、その年の秋に畑から堀り上げた球根が届いた。球根は発芽体の下に、いくつかの乳白色の袋状のものがぶら下がっている。その不思議な物体は、ミルクタンクとも呼ばれる養分貯蔵体だという。エメラルド色と白色の球根は大きめの鉢に植え付け、ピンク色の球根は春に植え付けるように室内に保管しておいた。バルコニーで冬越しできるか分からなかったので、植え付け時期を変えてみたのだ。


有名な野生地の一つ、タイのパヒンガム国立公園に咲くクルクマ。クルクマは、主にラオス、タイ北部、カンボジアに自生する熱帯植物。Verin/Shutterstock.com

球根の半分は三浦半島に住むイラストレーターの友人に届けた。彼女と知り合ったのはタイのチェンマイだったので、この花は懐かしいに違いないと思ったのだ。クルクマは東南アジアの中でも、特にタイでの印象が強い。バンコクの青果市場では、野菜の脇にクルクマの束が並んでいたので、仏花として用いられるのかもしれない。英名は「シャムのチューリップ」〈Siam tulip〉で、シャムはタイの旧名なので、やはりタイで多く見かける花なのだろう。