引っ越しで業者に依頼する際、荷物の破損や紛失といったトラブルが発生してしまう可能性があります。
お気に入りの家具や一等品を持っている場合は、万が一の事態に備えて加入できる保険とその補償内容を知っておく必要があります。
また、引っ越しを終えた後は、転居元の建物や家財を対象とした火災保険を解約する手続きを行わなければなりません。
ただ、家財を対象とした火災保険については、解約せずに住所変更で契約が継続できる場合もあるので、まずは保険会社に相談しましょう。
本記事で、引っ越しの際に活用できる保険の種類と補償内容、引越し後における保険の手続きについて解説します。
引っ越し時の保険による補償は3種類ある
引っ越し時の荷物を補償してくれる保険は、大きく分けて3種類あります。
引っ越し時のルールや保険の種類
国土交通省の「標準引越運送約款」に基づくもの
引越し業者の「運送業者貨物賠償責任保険」
消費者の「引越荷物運送保険」
なお、「標準引越運送約款」と「運送業者貨物賠償責任保険」は引越し業者に関係するもので、消費者(依頼主)が保険料を払うことはありません。
引越荷物運送保険に加入して、保険料を払わなくとも引っ越し業者の責任による事故であれば、補償を受けられますが、あらかじめ補償範囲が取り決められているので、それぞれの内容について理解しておく必要があります。
それぞれの保険について解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
国土交通省の「標準引越運送約款」に基づくもの
国土交通省が定める「標準引越運送約款」とは、消費者と引越し業者との間のトラブルを未然に防ぐことを目的としたルール(約款)のことです。
標準引越運送約款には、見積もりや荷物の受取・引渡し、事故が発生した場合の損害賠償に関するルールが記載されています。
内容を簡単に要約すると、引越し業者側の過失が原因による荷物の破損や紛失、家屋への損害については、引越し業者が賠償するとしています。
ただし、引越し業者に過失がなかったと証明された場合や、荷物の引渡し日から数えて1年以内に消費者からの通知がなかった場合、以下に該当する場合は補償対象外です。
補償対象外となる場合の事例
荷物の欠陥、自然の消耗
荷物の性質による発火、爆発、むれ、かび、腐敗、変色、さびその他これに類似する事由
ストライキ若しくはサボタージュ、社会的騒擾その他の事変又は強盗
不可抗力による火災
予見できない異常な交通障害
地震、津波、洪水、暴風雨、地すべり、山崩れその他の天災
法令又は公権力の発動による運送の差止め、開封、没収、差押え又は第三者への引渡し
荷送人又は荷受人等の故意又は過失
平成30年(2018年)には標準引越運送約款が改正され、依頼者が引っ越し依頼をキャンセルする際の費用が次のとおりに改正されました。
参照:標準引越運送約款|国土交通省
これは事業者を守るための変更で、事前に手配した車両やドライバー等が活用できない事態を防ぐことを目的としています。
すべての引越し業者は、消費者から引っ越しの見積り依頼を受けた際に標準引越運送約款を提示することが義務付けられています。
なお、実際には見積書の裏面などに「標準引越運送約款」が記載されていることが多く、口頭での説明はされないケースが一般的です。
また、一部の引越し業者は国土交通大臣から認可を得た「独自に作成した約款」を使用している場合があります。
約款内容は事前にしっかりと確認し、疑問点は余すところなく質問するようにしましょう。
引越し業者の「運送業者貨物賠償責任保険」
運送業者貨物賠償責任保険(運送保険)は、引越し業者や運送業者が加入する損害保険のことです。
引越し業者が依頼を受けて、消費者の荷物を運送している最中における荷物の紛失や破損による損害賠償を補償しています。
上述の通り、引越し業者が加入する損害保険なので、消費者が保険料を支払う必要はありません。
ただし、運送業者貨物賠償責任保険を使うと、引越し業者の翌年以降の保険料が高くなるケースがあります。。
また、万が一のトラブルが発生しても、引越し業者側に過失があると証明できない場合には、運送業者貨物賠償責任保険での補償が受けられない可能性があります。
なお、引越し業者に過失があると証明できた場合でも、あらかじめ補償の範囲が取り決められているので、すべての被害に対して補償される訳ではありません。
詳しい補償の範囲については後述しますが、補償を受けるためには破損や紛失を証明するための写真などの証拠を集めておく必要があることを覚えておきましょう。
消費者のための「引越荷物運送保険」
引越荷物運送保険は、消費者が個人で保険会社と契約して加入することができる保険商品です。
引越荷物運送保険に加入していれば、たとえ引越し業者に過失がない事故でも、荷物の破損や紛失、万が一の盗難に対しての補償が受けられます。
ただし、引越荷物運送保険もすべての物品が補償対象になる訳ではなく、以下に該当するものは補償の対象外となります。
引越荷物運送保険の補償対象外となる一例
有価証券、現金、印紙、株券、債権、商品券など
貴金属や宝石類など:金、銀、プラチナ、象牙、べっ甲、珊瑚など
美術品や骨董品など:その他、価格決定が困難なものや金銭で購入できないもの
動植物:ペット、植木鉢など
パソコンなどに入っているデータなど
爆発や発火の恐れがある危険物
引越荷物運送保険は、引越し業者のプランやパックに付帯されていることが多く、1,000〜2,000円程度の保険料を払って加入するケースが一般的です。
加入は任意なので、引越し業者からの見積書に引越荷物運送保険の保険料を確認して、不要な場合はその旨を明確に業者へ伝えるようにしましょう。
(広告の後にも続きます)
運送業者貨物賠償責任保険の補償範囲
運送業者貨物賠償責任保険は、あらかじめ補償範囲が取り決められています。
基本的には、運送業者に責任がある事故が発生した場合には、補償してもらえる保険です。
運送業者側にとって、保険に入ることで、賠償金を保険会社から支払ってもらえるメリットがあるのです。
運送業者貨物賠償責任保険の補償範囲について把握しておきましょう。
補償の適用範囲
運送業者貨物賠償責任保険の補償範囲は、次の通りです。
運送業者貨物賠償責任保険の補償範囲
引越しに関わる荷物の運搬中に、偶発的に生じた事故による損害(紛失・破損)
依頼主が訴訟を起こした場合の訴訟・仲裁・調停費用
引越し業者が加入する「運送業者貨物賠償責任保険」は、業者ごとに様々な補償額が設定されていますが、少なくとも1,000万円以上の補償額を設定している企業が多いです。
荷物の中に著しく高価なものがない限りは、運送業者貨物賠償責任保険で補償が適用されると考えて差し支えありません。
ただし、下記に該当するものに関しては補償条件が制限されている場合があります。
条件制限貨物の一例
青果物、生鮮食料品および冷凍・冷蔵・保冷・保温等温度管理される貨物
生動物(家畜及び活魚を含む)
植物(生花、球根、苗等)
貴金属類、宝飾・宝石、骨董品、彫刻物及びその他の美術品貨紙幣類、有価証券
詳細については引越し業者から見積もりを取り寄せた時点で、確認を取るようにしてください。
補償の適用範囲外
大前提として、国土交通省が定める標準引越運送約款で定められているもの(荷物の欠陥や自然消耗など)に関しては一切の補償が受けられません。
その他、運送業者貨物賠償責任保険の補償範囲外となるものは、次のとおりです。
運送業者貨物賠償責任保険の補償範囲外
配送遅延による損害費用
荷造りの不完全
貨物の自然の消耗・さび・かびなど
戦争、ストライキ、暴動などによって生じた損害
サイバー攻撃により生じた損害
引越し業者が加入する「運送業者貨物賠償責任保険」で補償が受けられるのは、引越し業者の過失が原因による破損や紛失、盗難などの運送業者が法律上負担する賠償責任が発生した場合です。
梱包が不十分など依頼主側に過失がある場合の損害については、補償を受けることができません。
引越荷物運送保険に加入していれば運送業者賠償責任保険で補償されない部分の補償が受けられますが、商品それぞれで補償範囲が取り決められているので、事前に内容を把握した上で申し込む必要があります。