ここ数年で最もパティスリー界が沸き上がったニュースがありました。パティシエならば誰もが憧れる自由が丘「パリセヴェイユ」のオーナー・シェフ・パティシエ金子氏の右腕として19年間、共に切磋琢磨した佐藤徹シェフの独立。そして今年2022年7月、ついに横浜・センター南に『BASCULE(バスキュール)』がオープンしました。

SNSを通じて広がったこのニュースは、スイーツ界隈だけでなく横浜中で話題となり、開店当初から長蛇の列。佐藤シェフの創るスイーツに感動の声が上がりました。

今回はそんな今最も熱いパティスリー『BASCULE(バスキュール)』をなんと『ウフ。』が取材。まだ語られていない佐藤シェフのありのままの姿を深堀した内容を2記事にします。前編となる本記事では、30年間職人として勤めた佐藤シェフの初ブランドとなる『BASCULE(バスキュール)』への思いから、佐藤シェフならではの素材選びまで。新たな秋の新作ケーキと共にお伝えします。

生まれ故郷だから意味がある。若き修業時代からの夢を実現させた『BASCULE(バスキュール)』という名のパティスリー

『BASCULE(バスキュール)』が7月にオープンして以来、初となる商品の入れ替え。

ショーケースには約20種類の生菓子が並べられています。色彩のトーンを下げることで鮮やかな色合いの中にも秋らしさを感じる今回のラインナップ。どれを見ても芸術的な仕上がりです。

そんな佐藤シェフの創るフランス菓子は全て、地に足を付けた下積み時代が育んだ知見のセンスから生み出されています。しかし、そんな“センス”さえも自分のお店を持つという一大決心をしたときには疑ったそう。

佐藤シェフ「店を横浜に出したのは、自分の出身地だから。やっぱりそれが若いときからの夢でした。でも、店をオープンして凄く悩んだのが“ギャップ”。

東京はお店も人も、全国から集まって来るので値段もお高め。それに対して横浜は、手頃で地元に愛されるお菓子屋さんが好まれます。

僕の経歴って、旧「シエ・シーマ」(市ヶ谷)から始まり、「パティシエ・シマ」(麹町)、フランス本国、「パリセヴェイユ」(自由が丘)そして今。どこも生粋のフランス菓子店です。このギャップをどう埋めようと、今まで作ったこともないショートケーキ作りに手を出すことも考えた。でも、まずは自分のやってきた“フランス菓子”で、満足させることに注力しようと考えなおしたんです。

今では『BASCULE(バスキュール)』は素材も手も込んだケーキとして、お客さんにご愛敬いただいているようですし、それでいいと思っています」

例えば、フランスで17世紀から親しまれ、単一的な作りでも知られる『クレームブリュレ』。しかし佐藤シェフの手にかかれば、ガラスのような光沢が表面を覆う美しいスイーツへと早変わりです。

このように他と一線を画す仕上がりになるのは、カラメリゼの最後に粒の細かいグラニュー糖を使用しているから。3段階に分けてカラメリゼすることで、水分や油の浮き沈みを最小限に抑えます。こうしてできた『クレームブリュレ』は時間が経ってもカリッと歯切れがよく、卵とバニラの香る芳香なカスタードに、カラメルの苦みが絶妙に絡みます。

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コーヒーと苦みが主役の『タルトカフェノワゼット』。まるで“トンチ”を利かせるように素材を選ぶ

『BASCULE(バスキュール)』をオープンして以来、今までのスタイルをクリエーションへとシフトするため思索をし続ける佐藤シェフ。そんな果てなき道のりを歩むため、ガトー作りの支柱としているのが“トンチを利かせた素材選び”だそうです。

佐藤シェフ「『タルトカフェノワゼット』を見た時、きっとチョコレートのタルトを想像するでしょう?でも、このタルトの主役はコーヒー豆の香りと苦み。粉砕したコーヒー豆をそのままプラリネに混ぜ込んで、ビターなチョコレートパートシュクレの上に敷いています。小さなタルトですが使用しているパーツは4つ。想像を遥かに超える珈琲の香りと苦みは大人のためのガトーです」

一口目にしっかりと感じるコーヒーの存在。そして後からやってくるマイルドな甘さはジャンドゥージャのブリュレ。小さなタルトとは思えない強烈な印象をあたえつつ、食べ終わったときには“美味しい”と思わせる説得力のある堅実なプチガトーです。