ドラマ『不適切にもほどがある!』でも問題視…無自覚に「マタハラ」になってしまう言動に要注意

「私の周りにも計画的に妊活している女子社員がいますけど、そういう子たちに言いたいのは、人生なんて、思い通りにならなくて当たり前なんだから、ある程度流れに身を任せる心のゆとりっていうか、遊びを持っていた方がいいと思うんです」

人気ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系=第9回)で、シングルマザーとして、テレビ局で働きながら、子どもを育てている犬島渚(仲里依紗)が雑誌の〝ワーママ特集〟のインタビューで語ったこの言葉が、劇中で、「マタハラ」に発展し大問題となった。

ドラマは、1986年の世界に住む主人公の体育教師が小川市郎(阿部サダヲ)が、ひょんなことから2024年にタイムスリップ。〝コンプライアンスでがんじがらめになった令和の世の中〟で、「昭和のおじさん」の小川が、セクハラ、パワハラ、暴言などの不適切な言動を繰り返し、価値観の変化に戸惑う「意識低い系タイムスリップコメディー」。

「そういうつもりで言ったんじゃないです!」

冒頭の発言をした犬島は、2024年の人物であり、自身もシングルマザーとしての悩みを抱えながら、テレビ局で働いてるという設定で、女性の働き方やセクハラなどへの意識は高い。冒頭の発言も、本人は決して悪気があったものではなかったと言うのだが、部下の杉山ひとみ(円井わん)に、(妊活のことを話したのは、当初、犬島だけだったにもかかわらず)個人名は出していないものの、その件を公にしたのは、「アウティング」だと問題視されてしまう。

さらに、仕事のシフトを決める会議の席上で、妊活や通院で都合が悪いということを杉山が伝えたところ、「だったら、その週はいないものとしてシフトを組んでおくから。来れたら顔出して」という犬島の発言が「マタハラ」だと杉山から告発されてしまう。

犬島は社内の調査委員会にかけられ、「プレマタニティーハラスメント」に該当すると断罪される。

犬島は「そういうつもりで言ったんじゃないです! むしろ休みやすいムードを作ってあげようと思って…」と涙ながらに訴えるが、結局、「出勤停止1か月」を言い渡されてしまう。

この展開に対し、X(旧ツイッター)上では、さまざまな意見が書き込まれた。

〈不適切にもほどがあるを見てて思い出したんですけど、昔同僚が妊娠したと聞いて「おめでとう!予定日はいつ?」って言ってマタハラだって怒られたことあったね。いまだに納得いかないな〉

〈言いがかり的なのじゃなくて本当のアウティングもマタハラもたぶんまだ世の中にあるのに、いつもの何でもハラスメントで嫌だねっていう方向に持ってこうとするのどうなんってモヤモヤしてしまった〉

マタハラに認定されうる“具体的な言動”とは

「マタハラ」の定義は多岐に亘り、他の多くの「ハラスメント」と同じように、〝そんなつもりで言ったんじゃなかった〟としても、劇中のように不用意な発言をして「マタハラ認定」されてしまうことは少なくない。

多くの職場のトラブルにも対応する杉山大介弁護士はこう話す。

「厚生労働省が発しているマタハラ指針(平成28年厚生労働省告示第312号)やそれを元にしたパンフレットなどに目を通しておくと、どういう言動がマタハラに該当するのかわかると思います。言動に関して裁判になった例で言うと、『想像妊娠である』と言及したものや、『妊婦として扱うつもりないんですよ』、『万が一何があっても働きますちゅう覚悟があるのか、最悪ね』といった発言に違法性が認められています」

雇用者側としては、妊娠、出産、育児を理由とした解雇、配置転換、降格、契約解除などの「不利益な取り扱い」はすることはもちろんのこと、杉山氏が指摘する通り、嫌みを言ったり、誹謗(ひぼう)中傷する発言したりすることも、マタハラに認定されうるケースがある。

やはり、多くのハラスメントと同じように、細心の注意を払うべきだろう。

犬島渚に対する「出勤停止1か月」は厳しい?

一方、劇中では、部下の杉山は一連の件でメンタル不調で休職になったとされているが、犬島渚に対する「出勤停止1か月」というのは、かなり厳しい気もするが…

「私はドラマを見ていないので詳細はわかりません。しかし一般論として『出勤停止1か月』というのは、どんな理由であれ、かなり重い処分で容易に出して良いものではないことは確かです。その趣旨が、給料は払う単なる『自宅待機』なのか、給与も払わない『懲戒処分』なのかにもよりますが、『懲戒処分』という位置付けなら、文句なしに違法で無効でしょうね。まして1か月もの長期間に及ぶものなら、解雇相当ぐらいの自信がないとやっちゃいけないというのが、使用者側目線での法的見解になります」

ちなみに杉山弁護士は、「あくまでドラマなので、不適切な言動が取り締まられることにより窮屈になっているという演出の方向性ありきになっている可能性はあります」と指摘している。 

確かにドラマ、さらにコメディーであるので、現実世界とは完全には一致しないだろうが、さまざまなハラスメントについて考える一助になっていることは間違いない。

ともあれ、不用意な発言で、「マタハラ」はじめ、さまざまなハラスメントをしてしまうことには気をつけておきたい。